人生が始まった感覚。それは、生まれたとか、物心ついたとか、そういうことではなくて、自分の「人生が始まる」という感覚。旅の準備を終えて、旅立つという感覚なのか、愛すべき人にであった感覚なのか、親との決別なのか、人それぞれその感覚は違います。
今回の「a yohakな人」である岡村忠征さん(以下、岡村さん)は、現在、art & SCIENCE Inc. というブランディングデザイン会社の代表をされています。そんな岡村さんの人生が始まった感覚。それは、ある映画がきっかけでした。
a yohak(余白)それは問いを生む時間、考える時間。自分の「人生」が始まる感覚。それは、その人の人生を強く象徴する瞬間です。ぜひ、自分の人生が始まった感覚について考えてみてください。a yohakの和紅茶を楽しみながら。
何かを我慢しながら見ていた
子どもの頃から岡村さんは、映画が好きで、家にあったビデオや映画館でよくみていたそうです。ただし、それは何かを我慢しながら見るということでした。
ストーリーは面白いけれど、切実さを感じないとか、テーマがくだらないとか、音楽はまあまあだ、ファッションはまあまあだ、といった具合に。岡村さんにとって、映画とは、いつだって少し何かを我慢しながら見るものでした。
"映画を見ている時って、自分との関わりとか、 人生の謎とか、あと、かっこいいとか、おしゃれとかってことを意識しないで見ていたんです"
こんなふうに考えていた岡村さんを変えたのが、クラブカルチャーとの出会いでした。
何も我慢しなくていい
クラブカルチャーに出会うことで、岡村さんは、それまで知らなかったカルチャーに出会います。映画、ファッション、音楽など、本当にたくさんのものに。
その中でも、岡村さんにとって衝撃的だったもの、それが映画でした。
"(当時の)クラブに行くと、ジム・ジャームッシュとか、突然そういう人達が僕の視界に入ってくる。で、見てみたらもう強烈な印象ですよね。ジム・ジャームッシュは、僕にとってすごく大きなインパクトでした"
ジム・ジャームッシュという映画監督の作品、それは岡村さんにとって、とんでもない衝撃だったようです。なぜなら、そこには、何も我慢しなくていい映画があったからです。
"ジャームッシュの映画を見た時、何も我慢しなくていい、かっこいいと感じました。しかも、映画的にも素晴らしい。さらに、ヴェンダースが映画を撮ったあとの残りのフィルムで、撮ったんです。それも学生時代に。それで、いいんだと思ったんです"
当時は、映画を学ぶにはとてもお金がかかりました。その現実を知って、自分で映画を撮ることを、諦めてしまっていた岡村さんにとって、ジャームッシュの映画の撮り方は、一つの希望となったのかもしれません。
人生が始まった
そして、岡村さんにとって決定的となったのが、フランスの映画監督、ジャン・リュック・ゴダールの『気狂いピエロ』という映画を見た時でした。
そのインパクトは想像を超えるものでした。
"『気狂いピエロ』を見た時に、本当に何にも我慢しなくて良かった。これだっていう感じで、本当に打ちのめされた。そこから、はっきりと、たったいま自分の人生が始まったって感じがしました"
岡村さんの人生が始まった瞬間。それは、ゴダールの『気狂いピエロ』を見た時でした。何も我慢しなくていいどころではなく、打ちのめされた、と。
そして、その感覚は、岡村さんの奥深くの何かに触れます。
"自分のように物を考えたり、とらえたりしてる人間が、世の中にもう一人いるって思いました。今考えたら、やばいです。でも、本当にそう思ったので"
若かりし頃の岡村さんにこれだけの衝撃を与えたゴダールもすでに90歳を越えています。
"本当に生きてるのが、不思議なぐらいです。彼は1930年生まれだと思うので。最後の生き残りですよ、ヌーベルバーグの、本当に"
岡村さんにとっての人生の始まった感覚。それは一本の映画でした。
あなたを強く象徴するだろう「人生が始まった」感覚。それがいつだったのか、どんな感覚だったのか。a yohakの和紅茶を飲みながら、ぜひ考えてみてください。
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